訪日旅行者の増加でもっとも大きな影響を受けているといっても過言ではない宿泊施設業界における、インバウンド市場に対する取組や現状を細かく分析していきます。
宿泊業界の市場規模や施設タイプ別の分析はこちらを参照ください
訪日観光における宿泊施設の市場規模
この段落の要約訪日外国人の宿泊者数増加の効果で、国内全体の宿泊者数も増加。
訪日外国人用の事業を行う宿泊施設に対しては国家の補助金あり。
※2010年4月~6月期調査より、調査対象を従業者数9人以下の宿泊施設に拡充されています。
訪日外国人宿泊者数の急激な増加により、国内の全体宿泊数も増加しており各ホテルの稼働率も上昇中です。
月別に見ていくと2015年は7月が一番多くて682万人の訪日人泊数です。
次に4月、10月、8月の順に多くなっていますが、国内旅行客と比較して月による人泊数の変化はありません。
▼市場規模
日本の宿泊業の市場規模は3.8兆円(2013年)とされ、うち日本人の国内旅行による消費額が3.3兆円、訪日外国人旅行者による消費額が4,960億円となっています。
日本における延べ宿泊者数は2014年、4億7,232万人泊で、前年(2013年)と比較して、日本人の延べ宿泊者数(4億2,750万人泊)は微減(1.1%減)でしたが、外国人の延べ宿泊者数(4,482万人泊)が33.8%増加したことで、減少分が補われ、全体としては日本の延べ宿泊者数は前年比1.4%の増加。
国内 外国人 の各々の消費額。
2013年 3.34兆円 4960億円
2012年 3.28兆円 3980億円
2011年 3.17兆円 3020億円
2010年 3.30兆円 3620億円
2009年 3.61兆円 3010億円
TSA表 -参照
▼補助金
観光庁は2016年3月4日より、宿泊施設に対してインバウンド対応のための経費の一部を補助する「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業費補助金」の公募を開始。宿泊施設のインバウンド対応支援事業とは、2015年度補正予算において、訪日外国人旅行者の急増による宿泊施設不足の緊急対策として行う、既存の宿泊施設を活用させるための事業。地域の宿泊事業者(5者以上)等による協議会が「訪日外国人宿泊者受入体制拡充計画」を策定し、国土交通省の認定を受けた場合、各宿泊事業者等が当該計画に基づいて実施するWi-Fiの整備、自社サイトの多言語化等の事業の経費の1/2(上限100万円)を支援します。
都道府県別人泊数
外国人延べ宿泊者数計66,372,660人泊(2015年1~12月 )の県別内訳は下記の通りです。
2011年以降いずれの年も東京・大阪・北海道・京都で全外国人宿泊者数の半数以上を占めています。2015年は上位4地域の割合は減少していますがそれでも半数は超えています。上位4つで56.2%。地方へ分散させる国家・各社の方針、及び、リピーター増加により都市以外へのニーズ増加を理由に地方宿泊者数も増加していくと考えられます。
施設タイプ別の規模
要約訪日外国人はシティホテルの割合が非常に高い。通信環境・アクセスのニーズ高い。
旅館宿泊希望者と比較して実際の旅館宿泊者は少なく開拓の余地あり。
国内宿泊に比べて、旅館の割合が少なく、シティホテルの割合がとても高いです。
ビジネスホテルが多いのは同じ。
※簡易宿所の項目は2015年より追加
アジア8地域・訪日外国人旅行者の意向調査(2015年)
株式会社日本政策投資銀行(DBJ)と公益財団法人日本交通公社(JTBF)が共同でアジア8地域に対して行った調査レポート。
宿泊施設に求めることは、通信環境の整備がもっとも多く、英語対応や母国語対応のほか、日本文化の体験など、ソフト面での要望も多いです。また温泉、大浴場への入浴意向については、訪日経験がない場合で4割、訪日経験がある層では5割に上り、訪日旅行経験を通じて温泉・大浴場への関心が高まると考えられます。日本の温泉で関心があるものについて、風呂からの眺望とお湯の泉質や効能に高い関心が寄せられました。
実際に泊まった宿泊施設 サンプル数2153(複数回答あり)
日本旅館 47%
豪華で快適な高級ホテル 39%
安価で基本的な設備のみ備わっているホテル(西洋式) 35%
ユースホステル・ゲストハウス 11%
現地の人から借りる家・アパート 12%
その他 1%
訪日経験のない人が求める宿泊施設
日本旅館 74%
豪華で快適な高級ホテル 18%
安価で基本的な設備のみ備わっているホテル(西洋式) 39%
ユースホステル・ゲストハウス 21%
現地の人から借りる家・アパート 32%
その他 0%
日本の宿泊施設に求めること サンプル数1040(複数回答あり)
通信環境の整備(インターネット、WIFW等) 39%
観光施設へのアクセス 37%
日本文化の体験(浴衣、着物着用、伝統的な遊び体験等) 28%
低価格、英語対応、母国語対応
日本料理、地元の酒などの充実
ショッピング施設へのアクセス
部屋からの眺望
広い温浴施設(露天風呂など)
宿泊施設外で夕食を食べることを選択できる
高価格でも高水準のサービス
スパやエステの充実
宗教や信条への配慮
その他
訪日経験者の温泉・大浴場の入浴経験は訪日経験1回で3~5割、2回以上で4~6割に上ります。
温泉・大浴場の入浴意向は訪日未経験者は4割だが、訪日経験があると5割を超えます。
日本の温泉で関心のあるもの サンプル数2251(複数回答あり)
眺めの良い風呂 45%
雪見風呂 43%
神経痛、関節痛、慢性消火器病などの症状に効く湯 41%
温泉の泉質や成分
露天風呂
美人の湯
客室露店風呂
温泉街の風情・雰囲気
源泉かけ流しであること
秘湯
泥湯や砂湯などユニークな入浴法
家族風呂
湯めぐり
日帰り入浴
大浴場
その他
特になし
言語対応、観光施設へのアクセス、日本文化の体験が求められている。旅館、現地の人から借りる家やアパートに住みたいなどといった需要があります。
→旅館・古民家等の活用で、宿泊施設の分散・地方への誘客を拡大
日本政府観光局(JNTO)によると、訪日外国人旅行者の増加が著しく、その8割はアジアからの訪日客で、またアジアの伸び率は他地域の概ね2倍以上となっているなど、アジアからの訪日客の意向を調査することは、今後のわが国のインバウンド観光振興を考えるにあたり、非常に重要と考えられる。今回調査結果においては、以下の5点が特に重要と考えられる。
(1)日本旅行の人気は、アジア8地域全体で引き続きトップであり、具体的に日本旅行を検討している割合も継続的に上昇。
(2)リピーターを中心に地方観光地への関心も高く、滞在の長期化・周遊化の動きもみられる。
(3)食事、買い物、観光などへの消費意欲が高く、国・地域により日本旅行の際に買いたいものには差がある。
(4)国・地域にかかわらず日本旅館への宿泊ニーズは高く、宿泊施設に求めることとしては、通信環境の整備(インターネット、Wi-Fi等)が最も多い。
(5)日本各地においては、温泉や食など、外国人旅行者の訪日目的となっている地域資源も多い。これらインバウンド観光にかかる高いポテンシャルを実際の訪問に結びつけるためには、地域全体を戦略的にマネージメントする組織(DMO: Destination Management/Marketing Organization)などによる、より戦略的な取り組みが重要となろう。
DBJでは、2012年より継続的にアジア8地域(韓国、中国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア)の旅行嗜好や訪日経験の有無によるニーズの変化を把握することを目的に、海外旅行経験者を対象としたインターネットによるアンケート調査を実施しています。
人気の宿泊施設
要約ExpediaとTripAdvisorの発表資料による国内人気のホテル。
新宿での宿泊が圧倒的に多い。
Expediaの2015年データによると、
東京への訪日観光客のうち新宿に30%の人が宿泊します。
●訪日客の人気ホテルランキング(Expedia:2015年)
ホテルグレイスリー新宿
京王プラザホテル
ホテルサンルートプラザ宿泊
新宿グランベルホテル
サクラテラス ザ ギャラリー 京都
ホテル日航成田
リザンシーパークホテル谷茶ベイ 沖縄
イーホテル東新宿
セルリアンタワー東急ホテル
ロイヤルパークホテル ザ 羽田
新宿が選ばれる理由としては、高級ホテルからお手頃なビジネスホテル、カプセルホテルなど、多様な宿泊施設が揃っていることがあげられます。また都内各所だけではなく、人気スポットである富士山へもバスでアクセスしやすいため、人気となっています。TOP10のうち5施設も新宿にあります。
エクスペディアにおいて世界3万都市にあるホテルの中から世界中の利用者の声をもとに調査した「世界ベストホテルランキング」においても、5位に日本のビジネスホテル「ドーミーイン札幌ANNEX」がランクインし注目を浴びました。夕食をホテルの外で食べたいと考える訪日外国人にとって、立地が良く、リーズナブルな価格で質の高い接客が受けられる日本のビジネスホテルは魅力的。
●行ってよかった!外国人に人気の日本のホテル
ランキングTOP20 2015
コンラッド東京
マンダリンオリエンタル東京
ホテル ムメ (京都)
パークハイアット東京
ザリッツカールトン京都
インターコンチネンタルホテルホテル大阪
大阪マリオット都ホテル
シャングリラホテル東京
パレスホテル東京
フォーシーズンズホテル丸の内 東京
東京ステーションホテル
ザ・リッツ・カールトン 東京
アンダーズ東京
グランドハイアット東京
帝国ホテル東京
ザ・ペニンシュラ東京
ザ・ゲートホテル雷門 by HULIC
庭のホテル 東京
シェラトンホテル広島
ホテル龍名館東京
-TripAdvisor発表資料による
ビジネスホテルの動向
要約新規出展が続いてきたが、そろそろ需要縮小も見据えられてきている。
訪日外国人取込みのため各ホテルの営業努力あり、海外旅行会社への情報の伝え方工夫。
ビジネスホテルの建設そのものは2年程度でできるが、用地の取得や手続きも含めると、開業まで最低でも3年はかかる。東京五輪が開催される20年以降も需要はあるのか。折からの人件費や建築費高騰に加え、テロや感染症などのイベントリスクもある。
アパの元谷代表は「大型の開業はそろそろ一巡。16年以降は徐々に投資負担の少ない中小型ホテルにシフトする」と需要縮小にも備える。全国で5.5万室を超えた。20年までに10万室を目指す。16年以降は投資負担の少ない中小型にシフト」。
「ビジネスホテルはシステム化され、参入障壁が低い」と説明。
宴会場やレストランを備えたフルサービスの高級ホテルは、開業後もサービスの維持や向上のために多額の運営費がかかります。だが、ビジネスホテルは人手がさほどいらず、運営費は少なくて済みます。集客を「じゃらん」や「楽天トラベル」といった、オンライン予約サイトに任せておけば、宣伝費もかからないです。
▼プリンスホテルの成功例
シティホテルも積極的に動いています。
アジアインバウンドホテルの先駆けとして開業されたのが、サンシャインシティプリンス。1980年代初頭のアジアでは、60階の高層展望台や巨大なショッピングコンプレックスが隣接したシティホテルというのは、香港以外にはまだなかったため、アジア客にとって池袋は最先端の場所として認知されていたのです。そういう意味でも、池袋はアジアインバウンド発祥の地といえます。
これからは中国もFITの時代。宿泊客のスマートフォン利用は当たり前となっているので、館内でのWi-Fi無料化対応など、新たに手を付けていく方針。
サンシャインシティプリンスでは宿泊者の半数が外国人で、うち7割が中国系(台湾、香港、シンガポールを含む)。ここまで外客比率が高いホテルは、一部の総客室数を少なく絞り込んだ高級外資系ホテルや格安のインバウンド専門ホテルを除いて都内には少ない。プリンスの外客比率が高いのは同グループの歴史的背景がある。1982年に開業した同ホテルは当初からインバウンド市場を主要なターゲットに据えていた。1980年代に台湾や香港、シンガポールなどのアジアインバウンド客を受け入れていた都内の主なホテルは、銀座第一ホテル、京王プラザ、サンシャインシティプリンスなど客室数の多さを誇る新興ホテル。
海外向けB to Bの観光情報媒体がいくつか刊行されているが、他社のホテルの掲載ページを見る限り、客室やレストラン、グループホテルの写真を並べるだけで、海外の旅行会社にとって有用な情報が載っていない。海外の旅行業者がホテルを選ぶ際、宿泊料金が最も重要な条件であることは確かだが、もっと細かい情報を提示すべき。たとえば同社のページでは、スタンダードの客室と間取り、部屋の面積、朝食やバイキング、団体客向け夕食のメニューなども写真入りで紹介。加えて、サンシャインシティにある展望台や水族館、ホテル周辺にある百貨店やビッグカメラなどの商業施設の情報も入れています。
一般に日本のホテルの客室面積は海外に比べて狭いことが知られています。それだけに、写真だけでなく、フロア面積を具体的に表示することは旅行業者にとってツアーを企画するうえで参考になります。最近、どのホテルでも団体客向けバイキング料理を用意しており、その内容は手の込んだものが多いが、海外の旅行会社にその中身まで伝えるケースは少ない。相手も集客のプロだけに、イメージ写真だけでは選ぶ条件にはならない。彼らの知りたい具体的な情報の提供こそが信用につながります。
サイトコントローラー
サイトコントローラーとは、複数の宿泊予約サービス(じゃらんやBooking.com)を一元管理できるオンラインのシステムです。宿泊施設側はサイトコントローラーを使用することで、在庫管理や料金設定、プランの更新をPCやタブレットなどで一元管理することができるようになる非常に便利なシステムです。
TL-リンカーン
要約国内最大規模。インバウンド本格化。
韓国の旅行会社との提携強化。3言語対応。
シーナッツは、宿泊施設の予約管理システム「TL-リンカーン」について、インバウンドサイトの「Booking.com」の接続を完了しました。TL-リンカーンの販売先は、旅行会社とネット販売を合わせて65社目。インバウンドに限ると、5社目となります。
TL-リンカーンの多言語版のリリース開始
対応言語は韓国語、英語、日本語で、先ごろ韓国の宿泊施設向けに提供を開始した。今後はさらに韓国の旅行会社やネット販売との接続を増やしていく方針で、11月中旬にはソウルと釜山で説明会を開催しています。
2010年からインバウンド対応開始。インバウンドサイト「Rates To Go」
インバウンド対応販売先一覧 6個
Expedia、Agoda、Booking.com、HRS、Ctrip、BICO
TEMAIRAZU
要約インバウンド対策の専用商品あり。
インバウンド対応販売先一覧 17個
Expedia、Agoda、Booking.com、Orbitz、HRS、Ctrip、Hostelworld.com、hotelbeds、GTA、BICO、Asia Hotel Navigation、自在家など
『TEMAIRAZU』及び『手間いらず.NET』概要
『手間いらず.NET』は、複数の宿泊予約サイトの一元管理を行うことができる宿泊施設向けのASPシステム。宿泊施設は、『手間いらず.NET』を利用することで、在庫の一元管理ができ、業務効率の向上、オーバーブックリスクの軽減、販売の最大化が実現できます。
『TEMAIRAZU』は、宿泊施設のさらなる収益拡大と生産性向上のため、また、近年重要になりつつあるインバウンド訪日客に対応するため、2015年2月12日に発売を開始した新商品。同商品は、『手間いらず.NET』の基本的な機能をベースとして、基本バージョンである『TEMAIRAZU STANDARD』、イールドマネジメント機能を実装した『TEMAIRAZU ADVANCE』、大規模ホテルなどを対象とした高機能な『TEMAIRAZU PRO』の3タイプがあり、宿泊施設のニーズにきめ細やかに対応しています。
ねっぱん!
要約TASと提携など訪日事業本格化。
Booking.comの推奨あり。
株式会社クリップス(新潟県新潟市、代表取締役 阿部広則)が提供する無料のクラウド型サイトコントローラー「ねっぱん!」(http://www.neppan.com/)は、株式会社ティ・エ・エス(東京都中央区、代表取締役 友瀬貴也)が運営するインバウンド旅行客向け宿泊予約サイト「TAS AGENT」(https://tas-agent.com/)と2015年12月16日に連動を開始。
「TAS AGENT」はアジアのインバウンド旅行客向けの宿泊予約サイト。事前決済および現地エージェントを通じたBtoBなので安心して集客することができます。アジアの数百のエージェントに効率よくプロモーションできるので、増加するアジアからのインバウンドマーケットで稼働率と売上アップが期待。
インバウンド対応販売先一覧 9個
Expedia、Agoda、Booking.com、HRS、Ctrip など
世界最大の宿泊予約サービス「Booking.com」の推奨サイトコントローラーに選ばれるなど、インバウンドにも強みがあります。
イージーサイトコントローラー
要約元から海外予約サイトに特化している。
海外予約サイトのカバー率高い。
イージーサイトコントローラーは海外予約サイトに特化したサイトコントローラーなので、ゲストハウスやホステルなど訪日外国人比率が多い宿泊施設にとっては、便利なサイトコントローラーです。
「HostelBookers」や「HostelsClub」といった、他のサイトコントローラーがカバーしていない予約サイトまで登録可能。また一応、国内の主要予約サイトである「楽天トラベル」や「じゃらん」とも提携しています。
インバウンド対応販売先一覧
Agoda、Booking.com、priceline.com、Expedia、Hotels.com、Venere、Hotwire、eLong.com、Orbitz、HotelClub、ebookers、CheapTickets、asia-hotels.com、RatesToGo、Hostelworld、Hostels.com、Backpack Online、BedandBreakfastworld.com、HostelBookers、Travelocity、lastminutes.com、Zuni、HostelsClub
海外の予約サイトが充実した在庫一括管理システム。クラウド型サービス(インターネット上でシステムが稼動するサービス)ですので、ソフトのインストールも専用PCも必要ない。インターネットに接続できる環境なら、iPadなどのタブレットからの操作も可能。
海外予約サイトで販売しているお部屋在庫の一括管理が出来るので、これまで1つ1つのサイトにログインをして費やしていた管理業務時間が大幅に短縮出来ます。また、予約やキャンセルが入ったときには自動で各サイトの在庫調整を行います。
宿泊施設とサイトコントローラーの訪日観光業における取組みをみていきました。宿泊施設は直接訪日外国人の満足度へ大き影響を与えやすいコンテンツである分、もっとも彼らの需要に敏感に応える必要があります。
訪日旅行市場における旅行業界全体の分析はこちらの集約版記事でまとめています。