分野別に分析する前に観光業界及びに旅行業界がどのような規模感であり、全体として近年どういった推移を辿っているのかを把握しておくことも重要だと思います。
旅行人数・業種別消費額・旅行者動向データ・オンライン比率を中心に解説していきます。基本的に数値データは観光庁発表資料るに基づいています。
訪日観光に関するマクロデータはこちらでまとめています。
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国内旅行者数の現状と推移
まず大前提として日本人口のおさらい。少子化と謳われている通り微減傾向にあります。
日本人の国内旅行の延べ旅行者数は5億9,522万人回(2014年)で、前年比5.7%減。
内、宿泊旅行の延べ旅行者数が2億9,734万人回で前年比7.2%減。日帰り旅行の延べ旅行者数が2億9,788万人で、前年比4.1%減。国内旅行人数は宿泊旅行も日帰り旅行も減少傾向にあります。
国内旅行者数 宿泊旅行者数
データ上で言われる旅行者というと、宿泊を伴う移動をした人は全員含まれるので、出張や帰省の人も含まれております。
実際に今回の分析の主な対象となる観光目的である旅行者は上記旅行人数のうち6割ほどです。 もちろん旅行業界にとっては出張・帰省の方々の存在を無視できません。大きなマーケットなので、この部分に特化した会社・事業も多く存在します。
目的別旅行者人数
延べ宿泊者数(人泊)
※左側は訪日外国人数を含む
国内宿泊旅行者数は減少傾向にありますが、人泊数は増加傾向にあります。海外旅行者の減少に伴い、中長期期間で海外旅行に行っていた層が国内旅行にうつり、平均泊数が伸びたと考えられます。
日本人述べ旅行者数のみの推移 (資料出典:観光庁)
日帰りと宿泊旅行の増減傾向はほぼ同じです。
旅行消費額について
次に、毎年これだけの旅行者がいて、どれくらいのお金が動いているのかを記していきます。
旅行消費額推移
旅行消費額とは、一般のイメージと乖離しているかもしれませんが消費者が旅行のために消費したものが全て含まれます。例えば旅行前に買ったカメラ、旅行中に買うお土産や旅行後のカメラの現像まで含まれています。もちろん金額のうちのメインは旅先までの移動費・宿泊となります。
2014年の旅行による消費額21.9兆円の内訳
国内旅行消費 18.5兆円(前年8.1%減)
宿泊旅行消費 14.0兆円(9.1%減)
日帰り旅行消費 4.5兆円(5.0%減)
・観光 11.5兆
・帰省/知人訪問 3.9兆
・出張 3.2兆
訪日外国人旅行消費 2兆278億円
海外旅行の国内消費額 1.4兆円
2013年 観光消費額 23.6兆円の内訳
2013 年の国内における観光消費(内部観光消費)は23.6 兆円であり、前年の 22.5 兆円から 1.1 兆円増加。
日本人国内宿泊旅行 15.8兆円(66.9%)
日本人国内日帰り旅行 4.8兆円(20.3%)
日本人海外旅行(国内分) 1.4兆円(5.9%)
訪日外国人旅行等 1.7兆円(7.2%)
(+海外旅行(海外消費分)3.2兆円)
内訳としては、メインとなる国内旅行消費額・訪日旅行者が日本で使うお金・日本人の外国への旅行で日本で使用したお金の3つに分かれます。近年、訪日客による消費割合が増えてきていますが、一種の重要な輸出となり日本の新たな国益となりますので国としても非常に重要視しています。外国人が日本に来るのに使用した外国の飛行機などは金額に含まれません。あくまで日本にお金がどれだけ落ちたかという数字。
経済波及効果
少し難しい話になります。波及効果などの詳しい意味は調べてみてください...
簡単に言うと、「観光業関連で発生する消費額でGDPの5%&雇用者の6%も占めている重要な産業なんだ」ということだけ把握していればOK。
2013年生産波及効果 48.8兆円 (以下すべて訪日観光分も含む)
付加価値誘発効果 24.9兆円 対名目GDP5.2%
内訳は直接効果11.3兆、第一次間接効果8.0兆、第二次間接効果5.5兆
雇用誘発効果 419万人 対全国就業者数6.5%
税収効果 4.3兆円 対国税+地方税 5.1%
生産波及効果46.7兆円であった2012 年と比べて4.4%増、付加価値効果 4.5%増、雇用効果 5.0%増となった。
業種別内訳
2012年 22.5兆円の内訳 前年比0.4%増
日本人国内宿泊旅行 15.3兆円(シェア68.0%) 同1.4%増
日本人国内日帰り旅行
ー4.4兆円(シェア19.6%) 同10.1%減
日本人海外旅行(国内分)
ー1.4兆円(シェア6.2%) 同7.1%増
訪日外国人旅行等
ー1.3兆円(シェア5.8%)
これらの旅行形態別の消費額は先ほど確認しましたね。次は旅行消費額がどういった業種にいくらずつ流れているのかといった観点です。
2012年データで少し古くて申し訳ないですが、推移としては大きく変わっていることはないので、こんな感じの内訳だと把握するには問題ないです。
旅行消費額 22.5兆円の内訳
小売業 1.38兆円
宿泊業 3.68兆円
飲食店業 2.49兆円
旅行サービス業など1.45兆円
運輸業など 5.69兆円
農林水産業など 0.24兆円
食料品産業など 1.76兆円
生産波及効果 46.7兆円の内訳
小売業 2.26兆円
宿泊業 3.79兆円
飲食店業 2.79兆円
旅行サービス業など1.84兆円
運輸業など 7.24兆円
農林水産業など 1.12兆円
食料品産業など 3.66兆円
雇用誘発の399万人の内訳
内訳は飲食店業59万1千人、小売業48万7千人、農林水産業42万4千人、運輸業39万9千人、宿泊業37万9千人、食料品産業19万4千人、旅行サービス業等16万6千人。
購入時別内部観光消費
次は消費のうち、旅行前・中・後に分けたタイミング別の数値です。
2013年国内消費22兆円のうちの内訳 (訪日観光含まない)
旅行前支出 3,3兆円 (→「土産代・買物代」が7割)
旅行後支出 1900億円 (→ 写真の現像などが含まれる)
旅行中支出 18.4兆円
もちろん旅行中が支出の大半を占めます。宿泊施設や航空券はもちろんほとんど旅行前に予約され決済は起きますが、こういうのも旅行中支出とみなされます。
次はその旅行中支出内での内訳です。
旅行中支出 18.4兆円
旅行会社収入 0.5兆円
交通費 7.8兆円
宿泊費 3.3兆円
別荘の帰属家賃 0.4兆円
飲食費 2.3兆円
土産代・買物代 2.9兆円
入場料・娯楽費 1.2兆円
旅行会社収入の概念は難しいですが、ここの金額的におそらく旅行会社が手数料として取得する利益上乗せ分でしょうか。旅行中支出のうち6割が交通費と宿泊費で、まあこれは想定通りですね。
グルメは旅の醍醐味だし目当てではなくても必ず何かは食べるので飲食代はまあこんなものでしょうが、土産・買物代は改めて数値で見ると威力ありますね。
今後は旅行中の買い物(お土産含む)に特化したサービスで目立つものが出てくるのでは、と個人的には思っています。
旅行形態別の規模
では、それぞれの形態別の比率を見ていきましょう。
国内旅行市場区分別シェア(2013年)
個人観光旅行に旅行会社のパッケージツアーも含まれます。旅行の中の個人観光は5割強ほど。
団体旅行:個人旅行= 22.7% : 75.2%
(2010年)社団法人日本観光振興協会の発表資料による
国内宿泊観光旅行の手配方法 (2010年)
「旅行会社を利用」には旅行会社のウェブサイト利用が含まれ、「宿泊施設に直接予約」には宿泊施設のウェブサイト利用が含まれる。
資料:公益財団法人日本交通公社「旅行者動向 2011 」
ネット専用旅行予約サイト(OTA)、直接予約の割合が徐々に増えてきています。旅行会社でもパッケージ販売だけではなく宿泊施設の単体販売などを始めている会社も増えてきています。
旅行会社の業種別規模
まず旅行会社といっても持っている資格が異なります。その資格により扱える旅行の種類も大きく分かれるのですが、ツアーの種類とは次の3つに分けられます。これは大事。
募集型企画旅行とは
『旅行の素材をパッケージ化して参加者を募集する旅行』
「旅行会社が、あらかじめ旅行計画を作成し、参加者を募集して実施する旅行」が募集型企画旅行。パッケージツアーはほぼ募集型企画旅行となります。募集型企画旅行を企画した旅行会社には、旅行中の事故などに対して補償金がでる「特別補償」と、旅行がパンフレットどおりに催行されないときに変更補償金が出る「旅程保証」が義務付けられます。
受注型企画旅行とは
『旅行者の依頼に基づいて旅行会社が旅行計画を作成する旅行』
旅行代金には企画料金が含まれる。企画料金を分けて明示した場合には契約成立後の取り消しの際に、旅行会社は「企画料金」を収受できます。募集型と同様、特別補償、旅程保証の対象。
手配旅行とは
『旅行者の依頼で手配を代行する旅行』
手配旅行の定義とは「消費者の要望により、エアーやホテルなどを消費者の代わりに、手配することを引き受ける契約」のこと。つまり旅行会社は消費者の委任を受けて代理で取り次ぎ行為を行うだけです。特別補償、旅程保証などの責任もなし。
第1種旅行業者の企画旅行、手配旅行取扱高の内訳(2013年度)
募集型企画旅行が減少し、受注型企画旅行の割合が徐々に増加している
ここまでのデータの参照元
旅行人数・宿泊人泊数の推移・経済波及効果は
観光庁・JATA(一般社団法人 日本旅行業協会)の発表資料のデータにより作成
消費額の内訳はTSA表を参照
旅行・観光サテライト勘定
(TSA:Tourism Satellite Account)
観光は非常に裾野の広い産業であり、個々の産業に関する統計は整備されているものの、それらからは全貌を把握することが困難。TSAは、これらの需要側、供給側の各種統計を統合し、分析の基盤を提供している。TSAは観光産業の直接的な経済効果、雇用効果の大きさを明らかにするとともに、TSAを基礎資料として産業連関分析を行うことで、生産波及効果を含めた、経済効果、雇用効果の大きさを明らかにすることが可能とするデータ。
旅行・観光サテライト勘定(TSA)とは、SNAのサテライト勘定のひとつであり、UNWTO(世界観光機関:World Tourism Organization)が国際基準『TSA Recommended Methodological Framework 2008』(TSA:RMF08)を示している。現在、フランス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド等観光先進国をはじめとする75 カ国において、TSAが導入され、観光政策に活用されています。
日本も2003年より導入 -観光庁HPより
顧客属性・動向データ
次に実際の旅行者の属性分布、及び旅行前・中の行動傾向をみていきましょう。
年齢別データ
(日本人旅行のみのデータ)
男性:女性=54.5% : 45.5%
同行者
目的地までの主な交通手段
居住地別データ
家族・カップル旅行で約6割を占めています。
交通手段においては各輸送機関が出すデータと比較し、飛行機の割合が高めに出ています。日帰りも含むと自家用車での旅行数が1番多い。
居住地に関してはほぼほぼ人口分布そのままです。
旅行で最も楽しみにしていたこと
旅行先での主な交通手段
月旅行申込み時期マーケットセグメント・月旅行申込み時期
1~2ヶ月前の申込みが約半数。ひとり旅・カップル・友人・家族の順で予約期間は直近になっていきます。
月別の旅行人数比率
8月.12月.10月.5月の順に旅行者数が多いです。家族旅行は特に偏りが極端で8・12月の2ヶ月間で2割を占める。友達同士の旅行は10・11月が多い。
全体的に2月,6月は旅行者数少なく旅行代金も安くなりやすいです。
マーケットセグメント(同行者×ライフステージ)別の宿泊数
1泊が過半数を占めており、2泊が3割。飛行機を用いた旅行だけ、などと見ると全体的にもう少し長めな数値になると思います。ひとり旅は一定数で長期間ありという特徴はありますが、それ以外はセグメント別の特徴は見受けられませんね。
データ参照元
顧客属性・動向データの出典はすべて観光庁の「旅行・観光消費動向調査」(2015年発表)を基に(公財)日本交通公社作成した旅行新報による。調査の対象実施機関は2014/1〜2014/12。標本数は国内旅行のみにしぼり21000件の旅行が対象。
調査方法は主にウェブ調査&訪問留め置き調査。あくまでアンケート調査なので参考。
県別宿泊者数
エリア別人泊数(2014年データ) ※2013年の前年比
東京が1番多く10%ほどを占めています。北海道、大阪が5%強で2、3位。続いて、静岡、千葉、神奈川の関東圏。7位沖縄、8位長野、9位愛知、10位が九州。次が京都、兵庫。19位の広島以外の中四国が低いです。東北エリアは宮城、福島などが高め。人泊数なので滞在期間の長さも数値に影響出ます。 ※北海道は道民による宿泊が多いことも考慮必要。
2014年分に関する考察
日本人延べ宿泊者数の年間合計を見ると、47都道府県のうち24都道府県において、延べ宿泊者数が前年より減少しています。減少幅が1割を超えたのは、京都(前年比21.6%減)、鳥取(同14.6%減)の2府県。一方、日本人延べ宿泊者数が前年より増加したのは23府県であり、その中でも徳島が前年比27.4%増で最も高い伸び率です。その他、福井(前年比16.7%増)、大阪(同13.3%増)、神奈川(同12.6%増)、滋賀(同11.5%増)においても伸び率が1割を超えています。
旅行予約のインターネット率
どの業界でもインターネット登場による変遷を大きく受けていますが、旅行業界ももちろん毎年大きく変化していっています。
日本のオンライン旅行市場規模は2兆9千億円です。
つまりオンライン販売比率は33% (2014年データ)
航空会社や新幹線などの輸送・宿泊施設などのサプライヤー取扱高における話なので、前述した旅行消費額とは分母が変わっています。
2011年度調査と比較すると23%増額、
オンライン販売比率では3%ポイント増加。
数値はフォーカスライトJapan(PCWJ)の最新レポートによるもの。
2014年3月~5月にかけ、延べ40以上の旅行に関係する主要な企業や業界団体の幹部を訪問しオンライン旅行販売の現状に付いて聞き取り調査。調査対象は、航空、宿泊施設、鉄道、レンタカー、バス、クルーズの6分野の旅行サプライヤーと、彼らが市場に提供する旅行サービスを販売する旅行会社。 -フォーカスライトJapan(PCWJ)
・TTA(既存リアル旅行会社)のオンライン販売強化
・ダイナミック・パッケージ販売が増加
・海外OTAサイトの活発化
主に上記の3つの影響でオンライン率が増加しています。
あとはもちろんユーザーがインターネット予約により慣れてきて、全業界でオンライン予約が進んでいるという要素も大きいです。
2013年度の旅行会社全体のオンライン販売額は1兆5699億円
2011年度の9895億円の約6割増となっています。
国内2大OTAの楽天トラベルとリクルートの各販売額も24.4%増の3644億円と大きく増加しており、引き続き市場を牽引している。しかし両社の全体に占めるシェアは60%から46%と減少。
一方、i.JTBの販売額は51%増(1613億円)、その他の旅行会社は2.4倍(計6375億円)で、2大OTAを上回る伸びとなっている。※「その他の旅行会社」には、楽天トラベル、リクルート、一休、i.JTB以外の旅行会社(日本に拠点を置く海外OTA含む)
(フォーカスライト推定値)
2兆9千億円ってのはサプライヤーの直販額も含まれますが、1.5兆円ってのはそのうち旅行会社(OTA含む)が販売した額に。
モバイル率
旅行オンライン予約のうちのモバイル率は38.9%
ちなみに国内すべてのEC取引のモバイル利用の割合は46.8%です。
旅行はアマゾンで買う日常品などと比べ非常に単価が高いので、スマホ率が多少下がるのは当たり前です。故にモバイル化が遅れているという訳ではないです。
利用者数トップ10の旅行予約サービスのスマートフォンからの利用者は2014年2月にPCからの利用者数を逆転し、2014年7月時点で昨年同月比約1.5倍の1,600万人となった。楽天トラベル以外のサイトでは依然としてPCからの利用が多い、もしくは、スマートフォンとPCの利用者数がほぼ同等。各スクリーンからの利用者がそれぞれ500万人を超えた「楽天トラベル」「じゃらん」2つのサイト共にPCの利用者の40%超が50歳以上、スマートフォンからは半数以上が39歳以下である。
各サイトのスクリーン別の一人あたりの利用時間(分)をみると、2つのサイト共にPCからの利用時間のほうが長い。
ーニッセン提供データ
世界の旅行分野の傾向をみると、モバイル端末によるネットショッピングのうち、ブラウザ利用が58%、アプリ利用率が42%。コンバージョンレートはアプリのほうが優勢
ー2015年 CRITEO発表データ
インターネット比率に関するデータは、各民間企業が発表する推計値のみ。 公式データは存在しないが上記が1番正確と思われる。
旅行業マクロ観点のまとめ
旅行業界の全体数値を頭に入れただけでは直接的には事業には役立ちませんが、大前提これらを把握しておくことで自分のやっていることがどれほどの影響を社会に与えているのかという実感を持つことは重要なのではと思っています。
国内旅行市場における旅行業界全体の分析はこちらの集約版記事で。1番見られている記事です。
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