法人が旅行業を行うには、国家に対して旅行業登録を行う必要があります。旅行業登録に必要な条件や、登録申請からのフローまでをこの記事で説明していきます。
旅行業とは
まず最初に旅行業とは何なのか定義から復習しましょう
「旅行者と旅行サービス(宿泊や運送)を提供するものの間にたって、相互のために契約をしたり、代理をしたり、取次をする」
これらの業務はこの旅行業登録をした機関しかできないのです。
旅行業登録に必要な前提条件
旅行業登録は下記で詳細を説明している手続きで進める訳ですが、登録前に以下2つの条件は必須です。
旅行業務取扱管理主任者
旅行業者は各営業所に「旅行業務取扱管理者」を1名以上選任し、一定の管理及び監督業務を行わせることが義務付けられています。1年に1回ある旅行業務取扱管理者試験に合格することで管理者になれます。
旅行業務取扱管理者資格の概要はこちらの記事を参照ください。
欠格事由
旅行業登録では欠格事由という項目があり、これらの代表または旅行業務取扱管理者が何れかに該当すれば、その法人は旅行業登録ができなくなります。成人者で普通に生きてきた人は欠格事由にはかかるような内容ではありません。
ⅰ.旅行業の登録取消をされてから5年を経過していない者
ⅱ.禁錮以上の刑又は旅行業法違反による罰金刑に処せられてから5年を経過していない者
ⅲ.申請前5年以内に旅行業務に関し不正な行為をした者
ⅳ.未成年者でその法定代理人が上記の1~3のいずれかに 該当する者
ⅴ.成年被後見人、被保佐人、破産者で復権を得ない者
基準資産額 + 営業保証金
旅行業登録を認定してもらうために、満たしておかないといけない基準資産額というものがあります。旅行業の種類ごとに分かれます。
第1種旅行業 3,000万円以上
第2種旅行業 700万円以上
第3種旅行業 300万円以上
地域限定旅行 100万円以上
貸借対照表を基にして算出される上記のお金を持っていることに加えて、登録時に営業保証金or分担金を機関に預けておく必要があります。
「旅行者に対して大きな損害を生じさせた場合に、会社のお金がないから補償しません」とはならないようにする制度です。登録時はこのお金を預けておくことが必須なのです。
第1種旅行業 7,000万円
第2種旅行業 1,100万円
第3種旅行業 300万円
地域限定旅行 100万円
分担金は営業保証金の1/5の額となります。下記で紹介する旅行業協会に入会していればより信頼度も高いということで預ける金額が少なくて済むのです。
※営業保証金を抜いた上で基準資産額を満たす必要があります。
5種類の旅行業者の形態
どの形態の旅行業に登録するかで、上記のように基準資産額・営業保証金の金額も変わってきます。フローは大枠は一緒ですが、多少変わってきます。最初からどの形態にするか選択しておく必要があります。
第1種 主に海外・国内のパッケージツアーの企画実施
第2種 主に国内のパッケージツアーの企画実施
第3種 主に航空機等のチケットの手配や他社の旅行商品の販売
地域専門 限られた地域でのみ手配が可能
旅行業者代理業 上記旅行業者が委託する範囲の旅行業務のみ可
各形態別の詳細は下記の記事を参照してください。実際の登録数の割合や平均労働人数の違いなども分析しております。
旅行業協会に入るメリット
旅行業登録時に多くの旅行会社が旅行業協会に入会します。旅行業協会に入る主なメリットは、上記でも述べた営業保証金が1/5の金額で済むことです。第3種を登録するには基準資産額とは別に300万円の営業保証金を支払う必要がありますが、旅行業協会に入っていると60万円の分担金で済むのです。
旅行業協会は下記の2団体が存在します。
・日本旅行業協会(JATA)
・全国旅行業協会(ANTA)
JATAとANTAの違いを徹底解説
サービス内容はほぼ一緒なので、下記の観点でそれぞれの会社に合った方を選びましょう。
・費用(入会費・年会費)
・登録スケジュール
・会員同士の繋がり
JATAとANTAの違い:費用面
旅行業協会に入ると営業保証金がやすくなる代わりに、協会へ支払う必要がある金額が発生します。最初に1度支払う入会費と毎年支払う年会費の2種類があります。
まず最初に支払う入会費は下記となります。
JATA ANTA
第1種 80万円 160万円
第2種 80万円 72万円
第3種 80万円 58万円
地域限定80万円 42万円
※ANTAは所属する都道府県でやや変わることがありますが、上記は主たる営業所が東京都内にある場合
基本的にANTAの方がJATAより安いです。
JATAとANTAの違い:スケジュール
JATAの方が高いのに何故JATAを選ぶ会社があるのかというと、スケジュールの違いがあります。
JATAはいつでも入会受付可能です。
ANTAの方は約2ヶ月に1回開催される常務理事会での承認が必要となります。タイミングが合わなければかなり待つこととなり、早く登録したい場合はJATAを選びます。
あとANTAは登録時にANTA会員2社以上の推薦が必要で何気にハードルが高いです。それぞれの詳細な手続き方法は下記で紹介します。
JATAとANTAの違い:会員同士の繋がり
これは費用とスケジュールの違いによる結果論という感じですが、JATAはおおきめな大企業が多いです。ANTAの方が新興企業が多めです。
基本的にはこの協会の横の繋がりがどうこうはないのですが、求めにいこうと思えば繋がりも活かせるのが旅行業協会のメリットの1つなので、参考までに。
登録行政庁
旅行業登録をする際に知っておく必要があることの前提情報の説明が長くなりましたが、実際に登録の進め方の話を進めていきます。登録申請書の届出や認定を受け取る登録行政庁は旅行業種別によって変わります。
第1種旅行業は「観光庁長官」。それ以外の業種は「主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事」となります。
つまり後者は本社の都道府県庁となります。東京に本社があれば東京都庁にいく必要があります。第1種旅行業は本社がどこであれ、観光庁長官への直接の申請となります。
旅行業登録手続きの大枠
本社を東京都に置き、第3種旅行業登録をする場合を例として説明します。
1.旅行業登録の申請書類フォーマットを都庁からもらう
ーこれはいつでも誰でも取得可能です
2.申請書類の作成
ー必要資料は下記詳しく解説しています。1.でもらった書式を埋めるものと、各機関にて取得する法人系の証明書があります。
3.東京都旅行業担当窓口でのヒアリング後、不備がなければ申請書類を提出
ー旅行業協会にも入る場合は、旅行業協会の「入会承諾書」を得た後に次の審査に進みます。
4.審査(東京都)
ー毎週月・水・金が可能です。当日は旅行業取扱管理者の参加は必須です。また財務状況についての質問もありますので、貸借対照表の質問について答えられる人がいればokです。旅行業取扱管理者の方が財務も理解していれば同一人物でもokです。
5.東京都より登録通知
ー4.審査の後に「営業所調査」も含み30~40日後に登録通知が送付されます。
ー登録通知を受けた日から14日以内に以下の6.~8.の手続きを行う必要があります
6.申請手数料の納付
ー新規登録手数料の納付手数料90,000円が必要です。登録通知受領時に現金を持参し観光部振興課に納付します
7.営業保証金の供託書の写しを東京都へ提出
ー旅行業協会の保証社員の場合、営業保証金の1/5額となる弁済業務保証金分担金の納付書でokです。
8.登録票・旅行業約款・料金表などの整備後、営業開始
ー登録票・旅行業務取扱料金表の用紙を購入し、必要事項を記載のうえ掲示する。
旅行業登録申請時の必要資料の解説
まずは登録行政庁から申請用のフォーマットを取り寄せることができます。提出が必要な書類は下記となります。[書式あり]と記載している項目は登録行政庁がくれるフォーマットに入っているものです。その他は各必要機関に訪れて取得する必要があります。
●新規登録申請書 [書式あり]
申請者の住所は、法人の場合は履歴事項全部証明書(登記簿謄本)の「本店所在地」、個人の場合は、住民票に記載の「住所地」とすること。
※また、法人の本店(個人の場合は代表者住所)と主たる営業所の所在地が異なる場合、及び正式商号の外に副商号を使用する場合は誓約書が必要。
●定款(写)又は寄附行為
「目的」は、「旅行業」又は「旅行業法に基づく旅行業」とする。最新の定款又は寄附行為の写しを提出。
●履歴事項全部証明書(登記簿謄本)
申請日を含めて3か月以内に発行され、変更事項について新旧の関係が記載されているもの。
●役員の宣誓書 [書式あり]
監査役を含む全役員の宣誓書(自署したもの)
●旅行業務に係る事業の計画 [書式あり]
「10 手配の確実性を証する契約先」欄に係わる契約は、その契約書の写しを添付すること。
●旅行業務に係る組織の概要 [書式あり]
旅行業務を取扱う部局及び関連部局の組織図。選任した管理者を明記する。
●直近の「法人税の確定申告書」及び添付書類の写し
抜粋ではなく、全頁の写し
●旅行業務取扱管理者選任一覧表 [書式あり]
旅行業務取扱管理者の合格証又は認定証の写し、履歴書、宣誓書を添付のこと。※なお、個人事業者又は役員が管理者の場合等は重複提出不要(履歴書、宣誓書は、自署のもの)
●営業所(その他の営業所も含む)の使用権を証する書類
営業所毎に建物登記簿謄本又は賃貸借契約書の写し。
※また、転貸借等の場合は、併せてその契約書及び賃貸人(所有者)の同意書が必要
●事故処理体制の説明書 [書式あり]
「外部との連絡体制」には、観光部振興課の電話番号を記入のこと。旅行業協会加入予定申請者はその体制を記入。
●標準旅行業約款 [書式あり]
約款2部。(2部のうち、1部は、登録通知書交付時に返却)
+旅行業協会に登録した状態で新規旅行業登録を行いたい人は協会から発行される入会承諾書が必要です。入会承諾書の取得方法は下記の旅行業協会手続き方法にて紹介します。
旅行業登録の期間
気になる旅行業登録にかかる期間ですが、問題なく順当に進めば50日間ほどで完了できます。※東京都庁審査の後の承認待ちが30~40日で、こればかりは短くすることができません。
旅行業協会に入る場合は、ステップが増えるのでやや期間は伸びます。(※協会入会の詳細手続きは下記で述べています) JATAの場合だと、書類不備などなくスムーズに進めば、2ヶ月以内で可能です。先に必要資料は揃えておき、JATAの入会承諾書をもらえたらすぐに都庁との面談審査の予約をしましょう。
ANTAの場合は2ヶ月に1回の審査日次第ですが、これが直近すぐにあればJATAと変わりないです。
旅行業協会の登録手続き
登録時に旅行業協会に入会して分担金を適用させたい場合は、都道府県知事の登録を行う前に先に各協会での手続きを行う必要があります。ANTAを例に説明しますが、JATAもほぼ同じ流れで、最初の審査がいつでも可能という点でより簡単です。
登録までの流れは以下のようになります。②の審査が2ヶ月に1回となります。②までにまず①の資料を作成して郵送する必要があります。①の必要資料も下記に記載しています。
①全国旅行業協会(ANTA)へ入会申請書提出
ー②の入会審査日の1週間前までに提出が必要
②全国旅行業協会(ANTA)にて入会申請書類審査
ー2ヶ月に1回の審査が各都道府県の事務所で行われる。審査には法人代表と旅行業取扱管理主任者が参加する必要があります。
ーここで承認された後に『入会承諾書と入会金等の請求案内』が1週間ほどで郵送にて届けられます。新規旅行業登録をする方で協会に入会希望の場合には、登録行政庁に申請の際この入会承諾書が必要となります。
③旅行業登録通知(写し)、旅行業者登録簿(写し)を全国旅行業協会(ANTA)へ
ー新規旅行業登録の場合は、②と③の間で都道府県庁or観光庁への登録申請が行われることになります。
④入会金及び会費、弁済業務保証金分担金納付口座案内の通知
⑤入会金及び会費、弁済業務保証金分担金をANTAへ納付
⑦弁済業務保証金分担金納付書をANTAへ送付
⑧全国旅行業協会(ANTA)常務理事会にて入会審議
⑨全国旅行業協会(ANTA)入会承認通知
旅行業登録後に発生する必要手続き
旅行業の新規登録の話は以上ですが、旅行業は一度登録認定されると永久に使える訳ではなく、更新の手続きも重要です。
・登録の有効期間は新規登録の日から起算して5年
ー有効期間満了日の2ヶ月前までに更新手続きが必要
・登録事項に変更事項が生じた場合は変更届出手続きが必要
旅行業登録のまとめ
自身に必要な旅行業種別をしっかりと選択して、適切な旅行業登録方法を把握して、進めていきましょう。旅行業登録があれば、ビジネスの幅も増え、旅行者からの信頼度/安心感も増すことでしょう。
旅行業務取扱管理者試験に独学で合格するためのおすすめ勉強方法はこちらでまとめています。
旅行業務取扱管理者資格の概要はこちらの記事を参照ください。